4.2.1 グリーンコンシューマー 地球規模の環境問題への具体的提案 | 認定NPO法人 環境市民

4.2.1 グリーンコンシューマー 地球規模の環境問題への具体的提案

文:杦本 育生

その新しい活動の中で、特に地球温暖化防止と結びついてごみ減量を具体的に進める活動としてグリーンコンシューマーをとりあげる。
グリーンコンシューマー=環境を重要視した消費行動、このこと自体は何も目新しいことではない。例えば、日本においても合成洗剤をやめて石鹸を使おうという活動の中で石鹸購入運動が盛んに行われたり、古くはヒ素ミルク事件に関連してM社の製品の購入ボイコット運動などがあった。
しかし1988年にイギリスで『THE GREEN CONSUMER GUIDE』7)が発刊されて、大きく広がっていったグリーンコンシューマー活動には、従来のそのような活動にはない特徴があるものであった。
まず、この本が出された目的が地球規模の環境問題への対応であったことである。地球温暖化、酸性雨、オゾン層破壊、海洋汚染、森林破壊などの地球規模の環境問題がクローズアップされてきた時に出版された。従来からイギリスではナショナル・トラストやシビック・トラストに代表されるように市民参加型の自然保護やまちづくりなどの環境活動が盛んに行われている。しかし、多くの人は地球規模の環境問題に関心はあっても具体的に何をしていいのかわからない状態であった。
この本は日常の消費行動と地球規模の環境問題が深く結びついていることを具体的に明確にした。そして、環境への負担の少ない商品・サービスを選ぶこととその方法、環境を取り組んでいる店や企業の紹介、スーパーチェーンの評価などを載せて、グリーンコンシューマーとして買い物することが、地球環境問題へ取り組むことになるという提案をした。
つまり、グリーンコンシューマー活動は特定の商品だけではなく、総合的に買い物を環境を重要視したものに変えようとものである。
そして、もう一つの大きな特徴は、消費者の行動によって流通企業とメーカーの環境への取組みを促進させるという影響力を与えようというもの、ひいては大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした現在の経済社会システムを変えていこうという活動だということである。その象徴的なできごとが初版発行の翌年である1989年に起こった。それはすでによく知られていることであるがスーパーマーケット業界で88年までシェアー1位であったSAINSBURYと2位であったTESCOが89年に逆転したことであった。『THE GREEN CONSUMER GUIDE』88年版のランキングでSAINSBURYは4つ星で最高位の一つであった。それに対して3つ星であったTESCOは、グリーンコンシューマーガイドを作成したジョン・エルキントン氏らに、具体的な環境問題の取組み方法について尋ねた。そして環境対策を企業経営の最重点課題として位置付けて取組んだ結果、89年のガイドでは最高の5つ星となったが、SAINSBURYは4つ星のままであった。SAINSBURYとTESCOのシェアー逆転について他の大きな要素は考えられず、この『THE GREEN CONSUMER GUIDE』6)のランキングがその要因であろうと分析され、社会に大きなインパクトを与えることになった。この本は初年度30万部の売り上げを記録し、そのヨーロッパを中心に訳されたり、各国のオリジナル版が出るなどベストセラーになっている。
この消費者が購買を選択することで企業への影響力を行使しようとしたもっとはっきりした実践例が『SHOPPING for a BETTER WORLD』8)である。アメリカで89年に初版が出たこの本は、製品のブランドごとにその製品のメーカーが社会的にどのような取り組みを行っているのかを評価したものである。例えば94年版では環境問題への対応、社会への寄付、コミュニティへの貢献、女性の雇用と待遇、社会的少数者の雇用と待遇、従業員と家族への福祉、労働環境、情報公開の8項目が5段階評価されている。また武器の製造への関わりと動物実験が別にコメントされている。90年当時はアパルトヘイト政策を続けていた南アフリカとの貿易をしているのかという項目もあった。その中で常に最も読者が考慮する項目は環境問題への対応である。この本は毎年データを替えながら出され、92年には既に合計100万部を突破している。
消費者がこのガイドの評価を見て、どこの会社の製品を買うのかということを決めれば、社会的にきっちりと取り組んでいる企業が伸び、そうではない企業の製品は買われなくなるというものであり、グリーンコンシューマー要素を含んだエシクス(倫理的)・コンシューマー活動と言えよう。

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