第2回:COP10で注目される議題その1 ポスト2010年目標(新戦略計画) | 認定NPO法人 環境市民

第2回:COP10で注目される議題その1 ポスト2010年目標(新戦略計画)

〜 a world of “Living in harmony with nature” ~自然と調和する世界

・・・これは、生物多様性条約(CBD)COP10で議論されるポスト2010年目標(新戦略計画)の中のビジョン(中長期目標)案です。全体の文章は、「この戦略計画のビジョンは、『自然と共生する』世界であり、すなわち『2050年までに、生物多様性 [私たちの自然資本]が評価され、保全され、回復され、そして賢明に利用され、それによって健全な地球が維持され、全ての人々に不可欠な恩恵が与えられる』世界である」(環境省仮訳)となっています。([ ]の部分は合意さ れず複数案となっていることを表します。これを[スクエアブラケット]といいます。)
環境省は「自然と共生する」と訳していて、日本が提案した文章だそうですが、“harmony”という単語なら「調和」の方がいいかなと勝手に変えてみました。自然と調和する40年後の世界とはどのような世界でしょうか。

・・・「2010年目標」は達成できなかった。
2002年COP6において決議された2010年までの目標は、「生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」というものでした。この目標は、具体性がなく、測定不能で、そもそも達成不可能だったと言われています。それでも190もの国が共通の目標として認めたものであり、そうしなければいけないという合意があったということです。しかし、2010年目標は達成されなかったという報告が本年5月にあえなく出されてしまいました。注1

・・・ポスト2010年目標とは?
5月にケニアのナイロビで開催されたCBD/ SBSTTA14(第1回参照)の翌週、引き続いて条約の実施とレビューに関する作業部会(WIGRI)が開催され、新戦略計画の内容について話し合われました。この計画には、前述した2050年に向けたビジョンと、2020年に向けたミッション(短期目標)があり、ミッションを達成するための5つの戦略目標とその20項目の具体的な行動目標が設定されています。これがポスト2010年目標と言われています。

・・・10年後の目標=ミッション
今度こそ達成可能な目標を決めようという意気込みで、NGOはこぞって声明を発表し、野心的な目標を設定するよう要求しました。ミッションは今後10年間の達成目標なので、各国代表団も自国に有利になるように動きます。その結果どのような案になったかというと、「[生物多様性の損失[を止めるための][の中止に向けて2020年までに]効果的かつ緊急な行動を実施すること。]以下、略」(参考:環境省仮訳)

読みにくくて申し訳ないのですが、事務局が提出した案に対して各国が意見を出し合い、多くの[ ]がつきました。当初、事務局案は[止める]だったのですが、ブラジル などいくつかの国が2020年までに生物多様性の損失を止めるのは不可能だと主張。一方、EUは強い意志を表すために残すべきだと主張して互いに譲らず、合意に至らなかったということです。さらにこの戦略計画については、資金の目途が立たなければ意味がないという理由で、最終的に計画全体に[ ]をかけられました。つまりCOP10の会議の流れ次第で計 画全体が不採択になってしまう可能性もあります。

この計画がCOP10で採択されると、AICHI—NAGOYA Target(ターゲット)と呼ばれるらしいです。骨抜きにならない実効力のある目標となるには、議長国である私たちの政府にがんばってもらわなくてはいけません。

・・・あるべき世界像=ビジョンの共有
合意と言えば、2009年末コペンハーゲンでの気候変動枠組み条約COP15でも京都議定書の次の枠組みが決まらなかったことを思い出します。いわゆる総論賛成、各論反対です。CBDでもビジョン=総論はほぼ合意されたものの、ミッション=各論では異論噴出という状態です。生物多様性は言葉通りに多様で、その地域ごとに特有のものでもあります。その地域の人々が生物多様性の恩恵を受ける世界を実現するためには、地域ごとに取り組む内容も異なるでしょう。それでも、“harmony”をその地域の言葉で表し、「自然と調和する世界」をイメージできることが合意と目標達成への道だと思います。

文/「ECO」日本語化プロジェクト コーディネーター 原野知子

注1:地球規模生物多様性概況第3版:GBO3: Global Biodiversity Outlook 3rd edition 日本語版

(参考)
ポスト2010年目標仮訳:環境省記者発表
ポスト2010年目標原案:外務省地球環境課作成パンフレット案 外務省ウェブサイトこちら

(みどりのニュースレター2010年8月号 No.207より)

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