1 英米のガイドブックのインパクト | 認定NPO法人 環境市民

1 英米のガイドブックのインパクト

文:杦本 育生

日本でグリーンコンシューマー活動が始まってから、10年が経過した。筆者はその立ち上げから今日までその活動を担ってきた一人であるが、今日、グリーンコンシューマー活動及びグリーン購入活動が、このように社会的な広がりを見せてくるとは、活動を開始した1990年当時は考えることもできなかった。この小論において、日本のグリーンコンシューマー活動の推移とその影響、課題等をまとめることにより、さらなるグリーンコンシューマー活動の進展と日本社会のエコロジー化に期待したい。
さて、グリーンコンシューマーという概念とその具体的な提案がなされたのは、イギリスで1988年に『THE GREEN CONSUMER GUIDE 』が出され、商品にかかわる環境の情報と大規模スーパーの環境への取組みランキングが発表されてからである。もちろん環境や健康を基準として、商品の選択とすると言う活動は、それ以前からあった。各種の不買運動や日本における石けん運動もその一つであるといえる。しかし生活に必要な全ての商品を、環境面からトータルに判断し購入基準としようという提案であること、流通に大きな力を持っているスーパーマーケットを環境の取組で星印によるランキングを付けたこと、地球規模の環境問題に対しても、一人ひとりがなしえることとして、消費を変えることが大きな力になりうることを示した点において、同書の企画と出版が今日のグリーンコンシューマー運動のスタートとして位置づけるべきであろう。同書はその後、世界各地で翻訳されベストセラーにもなった。
また、1989年にはアメリカにおいて『SHOPPING FOR A BETTER WORLD』が出版された。この書は環境問題への対応、社会への貢献、女性やマイノリティの雇用、軍需産業への荷担などの基準においてメーカーを採点し、それを商品ごとにわかりやすく表にしたものであり、その後毎年改訂され94年には累計100万部に達している。
この2つのガイドブックは日本の消費者運動、環境運動をしているものに大きな衝撃を与えた。このようなガイドブックを日本でもつくりたい、と考るグループが筆者が知るだけでも多くあった。しかし実際には大きな障害があった。それは情報、商品の環境面の情報、企業の環境問題をはじめとする社会的行動面での情報が、日本では入手が非常に困難であったということである。イギリス、アメリカのガイドブックを作成したグループは、出版されるまでに情報を取得する長年の活動があった。それに株主や地域住民に対して、日本よりは多くの様々な企業活動情報が提供されてもいる。今日でこそ日本においてもかなりの企業が「環境報告書」を作成し公表するようにはなってきたが、90年当時は絶無であった。また日本には情報公開法もなく、情報公開や積極的な情報開示が社会的に必要とされているという認識も不十分であった。さらに日本においては消費者活動、環境活動とも欧米ほど組織化されていず、独自の情報取得能力もあまりなかった。このような理由で実際にガイドブックを作成することは困難であった。
グリーンコンシューマー活動は情報活動という特徴がある。環境にいい商品を選びましょうと抽象的に呼びかけても、消費者は反応しようがない。どのような商品を選ぶのか、どこにいけばその商品が手に入るのか、商品だけでなく企業として環境への取組を真剣に実施しているのはどこか、このような情報があって始めて行動に移すことができる。その情報の手段としてガイドブックは重要なものである。

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